横浜地方裁判所 昭和51年(行ウ)25号 判決 1979年6月11日
神奈川県相模原市東林間六丁目一番一五号
原告
武藤貞一
右訴訟代理人弁護士
加藤一昶
同県同市上鶴間三九七一番地の二
被告
相模原税務署長
手島光春
右指定代理人
菊地健治
同
比嘉毅
同
白井文彦
同
中村正俊
同
小野政一
同
大西亨
主文
原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告が原告に対して昭和五〇年三月一三日付でなした、昭和四四年分所得税の総所得金額を一七六一万五六九四円とする更正処分のうち総所得金額四三四万〇六九四円を越える部分及び重加算税二〇四万一八〇〇円の賦課決定処分、並びに昭和四五年分所得税の総所得金額を九〇六万七〇九〇円とする更正処分のうち総所得金額六六七万七〇九〇円を越える部分及び重加算税三三万六九〇〇円の賦課決定処分をいずれも取消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
主文と同旨。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 原告は、昭和四五年三月一五日、昭和四四年分所得税について、別表一(一)の確定申告欄記載のとおり、確定申告をなし、また、昭和四六年三月一五日、昭和四五年分の所得税について、別表一(二)の確定申告欄記載のとおり、確定申告をした。
2 被告は右に対し、昭和五〇年三月一三日、原告の昭和四四年分及び昭和四五年分の各所得税について、右各年分の確定申告に係る所得のほかに、昭和四四年分は一三二七万五〇〇〇円、昭和四五年分は二三九万円の雑所得がそれぞれあるとして、昭和四四年分の所得税については、別表一(一)の更正及び決定欄記載のとおり、総所得金額を一七六一万五六九四円とする更正処分及び重加算税額を二〇四万一八〇〇円とする賦課決定処分をなし、また、昭和四五年分の所得税については、別表一(二)の更正及び決定欄記載のとおり、総所得金額を九〇六万七〇九〇円とする更正処分及び重加算税額を三三万六九〇〇円とする賦課決定処分をした。
3 そこで、原告は、右各処分(以下「本件処分」という。)を不服として昭和五〇年四月一八日被告に異議申立をしたところ、被告は、同年七月一八日右申立を棄却する旨の決定をした。さらに、原告は、同年八月一五日国税不服審判所長に審査請求をしたところ、同所長は、昭和五一年七月六日審査請求を棄却する旨の裁決をした。
4 しかしながら、被告が雑所得として主張する金員は、後記五のとおり、預り金であるから雑所得ではない。また、本件処分はいずれも法定申告期限から三年を経過した後になされているところ、原告は、国税通則法第七〇条第二項第四号所定の「偽りその他不正の行為により税額を免れた」ものではない。さらに、重加算税賦課の要件である同法第六八条第一項所定の「国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していた」ものでもない。従って、本件処分は、右のいずれの点からみても違法であり、取消を免れない。
よって、請求の趣旨記載の判決を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因第1項ないし第3項記載の事実は認める。
2 同第4項記載の事実及び主張は争う。
三 被告の主張
本件処分は、次のとおり正当になされたもので何ら違法の点はない。
1 (昭和四四年分、昭和四五年分の雑所得について)
(一) 原告は、訴外三協物産株式会社(以下「三協物産」という。)に専務取締役として勤務していた者である。三協物産は、東京都西多摩郡瑞穂町地域で住宅地を造成するため、昭和四三年一二月二〇日、訴外久米川土地建物株式会社(以下「久米川土地」という。)を売主として、あらかじめ右造成の対象となる三四万二六五七・八四平方メートルの土地を坪当り九五〇〇円で買受ける旨の契約(以下「本件土地売買契約」という。)を締結し、久米川土地は右対象土地を地主から買い取り、所有権を三協物産に移転することとした。これにともない、三協物産は、原告及び同社の不動産部企画調査部長江藤春雄(以下「江藤」という。)並びにその他三名の社員を久米川土地の現地事務所に派遣し、久米川土地の地主からの買収業務の応援、指導監督にあたらせていた。そして、三協物産は、買収資金を瑞穂農業協同組合(以下「瑞穂農協」という。)の久米川土地名義の普通貯金口座に振込み、久米川土地は、原告及び江藤の指示を受け、同貯金口座より土地代金を引き出し、これを地主らに支払っていた。
(二) ところが、三協物産から瑞穂地域の買収業務の責任者として久米川土地に派遣された原告及び江藤は、右土地代金の支払について、土地代金名目の外に調整金などの名目で土地代金の一部が支払われるという慣行があることを奇貨とし、前記のように、三協物産が瑞穂農協に買収資金として振込んだ貯金を管理する立場にあることなどを利用して、右買収資金の一部を私することを共謀し、久米川土地の代表者鈴木良一(「以下「鈴木良一」という。)に対し、真実の土地代金のほかに特別調整金等の名目で、偽りの領収証を作成して土地代金を支払った如き形式をとり、土地代金を水増ししで三協物産から土地代金を支出させ、その水増し部分を原告、江藤及び鈴木良一の三人で分配し、また、久米川土地の関係でも右偽りの領収証を使用して会計処理等をするように強要した。
(三) 久米川土地は、本件土地売買契約で約一億五〇〇〇万円程度の利益が見込まれていたため、殊更土地代金を水増しして買収資金の一部を取得する必要がなかったこと、右買収資金は本件買収が完了するまでは久米川土地の三協物産に対する売上代金の前渡金的性格のものであり、しかも未清算の段階では久米川土地の損益が判明しないこと、更に久米川土地としては、本件買収をするにあたって三協物産の鈴木重成社長を説得するなどして世話になった原告及び江藤に、本件買収の終了時点で右取引の見込利益の中から四〇〇〇万円ないし五〇〇〇万円位の謝礼をするつもりでいたこと等から、偽りの領収証を作成して土地代金を水増しすることを拒否した。
(四) しかるに、原告及び江藤は、「今が金をつかむチャンスだ。」と言って聞き入れず、買収資金を管理する立場を利用して久米川土地に右行為を強要し、久米川土地の瑞穂町の現地事務所で、原告及び江藤の両名、又はどちらか一人立会いのもとで久米川土地に偽りの領収証を作成させる等して土地代金を水増しし、右水増しにより久米川土地に支払われた金員の一部を取得したものである。
(五) 右のようにして、原告が昭和四四年中及び昭和四五年中に水増し金員を取得した年月日及び金額の明細は、別表二記載のとおりである。
また、原告は、右のほかにも、昭和四五年四月一〇日、買収資金を管理する自己の立場を利用して、その使用目的を明らかにすることなく、返済の意思もなく、久米川土地に三〇万円の交付を要求し、これを取得している。これらの金員は、その後においても久米川土地に返済されていないし、また、久米川土地も原告に返還を要求していないこと、特に昭和四六年ころ土地買収に応ずる地主が多数出てきたため、久米川土地は急激に買収資金が必要となり、原告を通じて三協物産に右買収資金の送金を依頼していたが、その時にすら右金員を久米川土地に返還していないのであるから、原告の以上の金員の取得は、これを雑所得とみるべきものである。
(六) また、右金員についての雑所得につき次のとおり、原告が久米川土地を利用して、仮装隠ぺいして、偽りの確定申告をなし、その税額を免れていたものであるから、国税通則法第七〇条第二項第四号所定の「偽りその他不正の行為により税額を免れた」ものに該り、かつ同法第六八条一項にいう、国税の課税標準等及び税額等の計算の基礎となるべき事実を仮装隠ぺいし、これに基づいて納税申告書を提出していたものに該る。
(1) すなわち、原告は江藤とともに、別表二記載の金員を取得するに際し、鈴木良一に対し、右金員を取得したとする証拠書類を絶対に残さないよう厳重に言い聞かせるとともに、偽りの領収証による会計処理を久米川土地に指示し、また、右金員を三人で分配する協議にも参画して久米川土地があたかも関係地主に金員を支払ったようにみせかけ、かつ受領した金員については架空名義で預金する等して自己が右金員を取得した事実を仮装隠ぺいし、右金員について所得がなかったように偽りの確定申告をなし、その税額を免れていたものである。
(2) また、原告が昭和四五年四月一〇日に受取った三〇万円についても、確定申告をしていないが、前記の如き事実関係の下で、原告は久米川土地に対し当然の如く交付を要求してこれを取得し、久米川土地も止むなくこれに応じたものであって、その授受については、前記分配金と同様に仮装隠ぺいすることが黙示的に双方了解の上でなされ、原告はこれを秘して確定申告をし、不正の行為により税額を免れたのであるから、前記分配金と同様に解される。
2 (更正処分)
そこで、被告は、原告の昭和四四年分及び昭和四五年分の所得税について、それぞれ別表一の各更正及び決定欄記載のとおり、原告が確定申告をなし、被告においてもこれを正当と認めた不動産所得、配当所得、給与所得に前記のように偽りその他不正の行為により取得した右雑所得を加えて昭和四四年分及び昭和四五年分の総所得金額をそれぞれ一七六一万五六九四円、九〇六万七〇九〇円と認定し、国税通則法第二四条により所得税の各更正処分を行なった。
3 (重加算税の賦課決定処分)
また、前記1のとおり、原告は昭和四四年に一三二七万五〇〇〇円、昭和四五年に二三九万円の雑所得を得たにもかかわらず、右所得を仮装隠ぺいして確定申告をなしたものであるから、被告は国税通則法第六八条第一項に基づき、各更正処分により納付すべき昭和四四年分所得税額六八〇万六四〇〇円、昭和四五年分所得税額一一二万三四〇〇円(ただし、国税通則法第一一八条第三項により一〇〇〇円未満切捨て。)に一〇〇分の三〇の割合を乗じて得た金額(ただし、国税通則法第一一九条第四項により一〇〇円未満の端数切捨て。)に相当する重加算税昭和四四年分二〇四万一八〇〇円、昭和四五年分三三万六九〇〇円を賦課決定した。
四 被告の主張に対する原告の認否
1(一) 被告の主張第1項(一)の事実は認める。
(二) 同第1項(二)ないし(六)の事実は、原告が久米川土地から被告主張の日時、被告主張の額の金員の交付を受けたことは争わないが、これは預り金であるから取得したとの事実は否認する。また、原告が本件土地売買代金を水増しして関係各地主等に支払った如く仮装し、偽りの領収証を作成するなどして会計処理をさせたこと及び原告が昭和四五年四月一〇日に交付を受けたとする三〇万円について仮装隠ぺいの行為により取得し、かつ右行為を前提として偽りの確定申告をなし、その税額を免れていたとの事実は否認する。その余の事実は争う。
2 同第2項の事実は、被告主張の如き雑所得の存在を否認し、その余の事実は認める。
3 同第3項の事実は、原告が昭和四四年及び昭和四五年に雑所得があったにもかかわらず、これを仮装隠ぺいし偽りの確定申告をしたとの事実は否認する。その余の事実は認める。
五 原告の反論
1 被告が雑所得であると主張している金員を原告が久米川土地から預り金として受領した経緯は、次のとおりである。
すなわち、本件土地売買契約では、代金の支払方法として三協物産は、久米川土地が各地主と売買契約をするごとに、同社に対してその代金に相当する金銭を支払い、坪九五〇〇円との差額は、買収完了後に一括して支払うという約定であったところ、その後久米川土地は、資金繰りが悪化してきたので、三協物産に対し、買収済の土地についての右差額金の支払を求めたが、三協物産は契約をたてにこれを拒否した。しかし、久米川土地の実情から、原告は右差額金に相当する金員を三協物産から特別調整金なる名目で支出することにしたが、これを久米川土地に一時に渡したのでは、他に費消されるおそれがあると考えたので、久米川土地等と協議のうえ、その一部を原告において保管し、必要の都度久米川土地に交付することとしたのである。従って、被告の主張する雑所得は、預り金であって所得ではない。
なお、その後原告は右金員を三協物産の代表取締役鈴木重成の求めにより昭和四八年四月から同年一一月までに四回にわたり同人に返還しているのであるから、いずれにせよ原告に被告主張のごとき所得はない。
2 また、右金員を三協物産から久米川土地に支払うときに、領収証を久米川土地から貰ったことはあるが、右領収証は、三協物産と久米川土地との間の問題であって、被告との関係で所得を偽り、仮装隠ぺいして確定申告をしたものではない。
六 原告の反論に対する認否
争う。
第三証拠関係
一 原告
1 甲第一ないし第一四号証。
2 証人鈴木良一、原告本人。
3 乙第一及び第二号証はいずれも原本の存在及び成立を認める。その余の乙号各証の成立は不知。
二 被告
1 乙第一ないし第三号証、第四号証の一、二、第五号証の一ないし八。
2 証人鈴木良一。
3 甲第一ないし第一三号証の各成立を認める。第一四号証の成立は不知。
理由
一 請求原因第1項ないし第3項の事実は当事者間に争いがない。
二 そこで、被告主張の雑所得について検討する。
1 被告の主張第1項(一)の事実は当事者間に争いがない。
2 右争いのない事実に、いずれも原本の存在及びその成立に争いのない乙第一及び第二号証、証人鈴木良一の証言によりいずれも成立の認められる乙第三号証、第四号証の一、二、証人鈴木良一の証言及び原告本人尋問の結果(ただし、後記認定に反する部分を除く。)並びに弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。
(一) 久米川土地は、もともと不動産の仲介を業とする会社であって、当初仲介手数料を得る目的で昭和四三年六、七月ころ三協物産に西多摩郡瑞穂町地域の土地を買収し、住宅開発をしないかという話を持ちこみ、仲介の話しを進めていたところ、同年秋ころに至り、同社の原告及び江藤から、三協物産の鈴木重成社長を説得し、買収資金の面倒をみるから、右地域の買収した土地をいったん久久米川土地の所有名義にしたうえで三協物産に転売してはどうか、その方が利益が多いではないかと再三勧められ、同年一二月初ころには、買収対象土地の地主らに対する根回しもほぼ終わり、三協物産から久米川土地に対し買収資金が出資されることが確実になるに及んで、そのころ久米川土地は右勧めに従うこととし、同年一二月二〇日三協物産との間に、いったん久米川土地が地主から土地を買受け、これを三協物産に転売することを内容とする本件土地売買契約を結ぶに至った。
(二) ところで、原告及び江藤は、瑞穂地域の買収業務の責任者として三協物産から久米川土地に派遣され、久米川土地が行なう同地域の土地買収業務を応援するとともに買収の指揮、監督をなし、また、三協物産から右土地買収資金として瑞穂農協の久米川土地名義の普通貯金口座に振込まれた金員を管理する立場にあったものであるが、本件土地売買契約の締結及び瑞穂農協への普通貯金口座の開設がなされる前の同年一二月初めころ、不動産業者の地主からの土地買収にあたり、その代金の支払方法として、土地代金名目のほかに調整金などの名目で代金の支払がなされるという取扱があることに目をつけ、かつ指導監督者として久米川土地に対し優越的な立場にあることを利用して、三協物産から土地買収資金として支払われる金員の一部を私しようと共謀し、鈴木良一に対し、真実の土地代金のほかにこれを買収するために要した費用の名目で架空の特別調整金などを計上し、土地代金を水増ししてこれを三協物産に請求し、三協物産から支払を受けたうちの水増し部分を久米川土地、原告及び江藤の三人で分配して取得すること、また、そのための方法としては、真実の土地代金の領収証のほかに、偽りの領収証を作成し、これを三協物産に提出して代金を請求し、さらに久米川土地の帳簿上も右架空の特別調整金等を土地の取得費として計上して会計処理をすること等を強く要求した。
(三) 久米川土地としては、本件土地売買契約による土地の買収は、規模も大きく金額も多額であるので、税務調査等により不正分配に係る架空の原価部分を否認され、久米川土地の所得として久米川土地のみが税負担をするようになると大変であるし、また、三協物産から久米川土地に支払われる金員は、本件土地売買契約により久米川土地が受領する売買代金のいわば前渡金的性格をもつものであり、後日問題が起こると困るなどの理由から、最初はこれに反対していたが、監督的な立場にある原告及び江藤が要求していることでもあり(特に江藤は、「今が金をつかむチャンスだ。」等と言って強くこれを要求した。)、止むなくこれに従うようになった。
(四) そして、久米川土地は、昭和四三年一二月末ころから昭和四五年六月ころまでの間、三協物産に対し地主から受取った真実の土地代金の領収証に加えて、偽りの領収証をつけてその合計額を地主に支払ったように報告し、三協物産から右土地代金の支払を受け、その都度その水増し部分を久米川土地、原告及び江藤の三人で分配した。
右のようにして、原告が久米川土地から受領し取得した金員は、昭和四三年中に受領した分を除き、別表二記載のとおり、昭和四四年中は三月一四日ころから一二月二〇日ころまでの間前後二一回にわたり合計一三二七万五〇〇〇円、昭和四五年中は一月三一日ころから六月二五日ころまでの間前後八回にわたり合計二〇九万円となる。
なお、その間にあって、原告は昭和四五年四月一〇日、久米川土地に対し右水増しによる分配金のほかに、買収経費等として処理することを示すことなく、また、返済する意思もなく、もっぱら自己の用に供するための金員であることを暗黙に示して三〇万円を要求し、原告の右意思を了解した久米川土地をして三協物産から買収事務経費として久米川土地に支出されていた金員から支払を受け取得した。
(五) ところで、右水増し部分の分配にあたり、原告及び江藤は、鈴木良一に対し、右金員は多額であるから原告らにおいて、これを取得したとする証拠書類を絶対に残さないようにと厳重に申し渡すとともに、領収書を偽造したり、水増し部分を分配したりする時は、必ず原告及び江藤又はそのうちの一人が立会い、また、偽りの領収証による会計処理を指導し、あわせて税額の計算の基礎となるべき事実を隠ぺいした。さらに、昭和四五年四月一〇日受領の三〇万円に関して、原告は、これを取得する正当な理由のないことから、前記水増しによる分配金と同様に、原告が右三〇万円を受領した事実を証する書類を残さないという趣旨で、右三〇万円に係る領収証を作成しなかったし、原告の意向を受けて久米川土地も正規の記帳をなさなかった。なお、原告は、右分配金等の受領した全員を架空名義で預金し、また、確定申告するにあたり、右取得した金員に係る所得について何ら申告しなかった。
(六) なお、久米川土地はその後昭和四六年ころに至り、三協物産から買収資金が送金されないため、買収資金が必要となり、原告を通じて三協物産に対し買収資金の援助を再三申し入れたが、結局三協物産からの送金が受けられず、最終的には昭和四七年一二月ころ本件土地買収から手を引くことになったのであるが、原告は、久米川土地の買収資金難による窮状の訴に対して右分配金等を支出することはなかった。
また、江藤は昭和四五年六月ころ三協物産をやめ、原告も昭和四六、七年ころ瑞穂町地区の現場から他に移ったが、三人で分配した金員及び原告が交付を受けた前記金員は右江藤の退社ないし原告の配置転換に際し何ら問題とされず、決済されることなくそのままにされていた。
原告本人尋問の結果のうち、右認定に反する部分は、冒頭掲記の証拠に照して信用できず、また、甲第四、第六、第一〇及び第一二号証には、原告の受領した金員が預り金である旨の記載部分があるが、これらの書面はいずれも原告自身において、その主張を記載したものに過ぎず、これを信用することはできないし、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。
3 ところで、原告は右金員を昭和四八年四月から同年一一月までの間に前後四回にわたり三協物産の代表取締役鈴木重成に返還したと主張し、原告本人はこれにそう供述をするが、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によると、鈴木重成は目下行方不明であることが認められ、同人に真偽をただすことはできず、また、多額の金員であるにもかかわらず、右金員についての三協物産の領収証もなく、その他これを裏付けるに足る十分な証拠はない。もっとも甲第一三号証(裁決書)によると、本件処分についての国税不服審判所長に対する審査請求手続中に、原告はこれが証拠資料として駿河銀行中央林間支店の木村昇名義の総合預金口座の写し及び昭栄畳材株式会社の借入金帳簿の写しを提出していることが認められるけれども、同号証によるも、右資料のみでは右金員が三協物産に返還された事実を認めることはできないとされているのであり、また、甲第一四号証も、その記載内容からみて必ずしも原告が右金員を鈴木重成に返還したことを認める証拠とするに足りない。そうすると原告本人の供述は結局信用することができないといわねばならない。その他右返還の事実を認めるに足る証拠はない。
4 以上の事実によれば、原告の預り金及び返還の主張は到底採用することができず、右金員は原告において不法に領得したもので、雑所得にあたると認めるのが相当であるところ、原告は右所得を隠ぺいし、その隠ぺいしたところに基づき別表一(一)(二)のとおり偽りの確定申告をなし、右雑所得につきその税額を免れたものであると認められる。
三 更正処分の適法性
1 右二に認定のとおり、係争各年分において原告には雑所得があり、右所得に係る納税に関して国税通則法第七〇条第二項第四号に規定する「偽りその他不正の行為により税額を免れた」ものと認めることができるので、被告が法定申告期限から五年以内に更正権を行使してなした本件各更正処分は適法であり、三年の除斥期間をいう原告の主張は理由がない。
(なお、仮に、原告が昭和四五年四月一〇日に取得した三〇万円について偽りその他不正の行為がなされていないとしても、国税通則法第七〇条第二項第四号は、「偽りその他不正の行為」によって国税の全部又は一部を免れた納税者に対して適正な課税を行なうことができるよう同条第一項各号掲記の更正又は賦課決定の除斥期間を同項の規定にかかわらず五年とすることを定めたものであって、「偽りその他不正の行為」によって免れた税額に相当する部分のみにその適用範囲が限られるものではないと解されるから(最判昭和五一年一一月三〇日参照)、原告の昭和四五年分所得税について原告に偽りその他不正の行為がある以上、右三〇万円についても被告が更正権を行使しうるから、右金員についての更正処分が違法となるものではない。)
2 以上一、二の事実によると、原告の昭和四四年分の総所得金額は、右雑所得の金額一三二七万五〇〇〇円、不動産所得の金額一二万八三八二円、配当所得の金額六四万九三一二円及び給与所得の金額三五六万三〇〇〇円の合計一七六一万五六九四円となり、昭和四五年分の総所得金額は、右雑所得の金額二三九万円、不動産所得の金額一〇万三五九〇円、配当所得の金額九六万六五〇〇円、給与所得の金額五六〇万七〇〇〇円の合計九〇六万七〇九〇円となる。従って、被告が原告の昭和四四年分及び昭和四五年分の所得税について、右のとおり認定のうえなした各更正処分は正当である。
四 賦課決定処分の適法性
また、前記二認定のとおり、原告は昭和四四年に一三二七万五〇〇〇円、昭和四五年に二三九万円の雑所得を得たにもかかわらず、右雑所得についてこれを隠ぺいし、その隠ぺいしたところに基づいて偽りの確定申告をしたのであるから、国税通則法第六八条第一項に基づき、各更正処分により納付すべき所得税額(ただし、国税通則法第一一八条第三項により一〇〇〇円未満の端数切捨て。)に一〇〇分の三〇の割合を乗じて得た金額(ただし、国税通則法第一一九条第四項により一〇〇円未満の端数切捨て。)に相当する重加算税が課せられることとなる。そして、前記三認定の総所得金額から、争いのない所得控除をなし、算出所得税額を計算し、これから配当控除、源泉徴収税額、申告納税額を差引き、本件更正処分により納付すべき昭和四四年分及び昭和四五年分所得税額を計算すると、それぞれ六八〇万六四〇〇円、一一二万三四〇〇円となり、これを基礎にして重加算税額を計算すると、それぞれ二〇四万一八〇〇円、三三万六九〇〇円となる。従って、右と同旨に出た本件重加算税賦課決定処分は正当である。
五 よって、原告の本訴請求は、いずれも理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 小川正澄 裁判官 三宅純一 裁判官 桐ケ谷敬三)
表一
<省略>
表2
昭和44年分
<省略>
昭和45年分
<省略>